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二年六ヶ月の刑に処す。

冤罪ではない。
東京地裁に足を踏み入れた。

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静寂に包まれた法廷はそれぞれの思いが流れていた。せわしく書類に目を通す裁判官は、いまから読み上げる判決文が澱みなく読み上げられるように目で読み、時折り開始時刻を確認するかのように、顔を持ち上げて時計に目をやっていた。
下段に座る書記官はキョロキョロと傍聴席を舐めるように目を回転させ、人それぞれの人格評価をしているかのようであった。
50人ほど座れる傍聴席は私を含めて五人ほどであったが、閉廷になった後でも退席しなかったので次の法廷の傍聴が目的だったのかも知れない。

シーンと静まり返った法廷に2時25分、裁判官の口が開いた。あたかもヒソヒソ話をしているような囁く声で「判決を言い渡します」と、その瞬間は切って落とされた。
『被告人を懲役二年六ヶ月に処す。』3秒ほど間が開いた。辛い判決になったのか・・・ 続けざまに『刑の執行を三年間猶予する』とはっきりと聞こえた。
安堵した。
裁判官からの判決に至った事件のあらましが述べられた。悪質であった事が強調されたが、被告人である本人の真摯な反省の気持と証人として意見を述べた家族の強いきずなに動かされたむねが淡々と読み上げられた。
2時30分閉廷となり法廷を出るとがっちりと握手をした。

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東京地裁の隣にある法務省全景

全国ニュースでも取り上げられた商法違反であった。いちやく有名人に躍り出た。
ショップを運営している彼は会社の資金繰りを少しでも楽にする為にネットオークションに販売網を広げる形で参加した。深夜遅くまで商品のラインアップを考えていた。ネット販売のコツが独特な勘として身につくと一般からの仕入をショップだけに絞りこみネット販売は海外に仕入れルートを探り韓国・中国に渡航した。

誘い込むように魔手は伸びてきた。韓国でブランドのコピー商品を手にして持ち帰り、ネットで販売するとまたたく間に完売した。資金繰りが脳裏をかすめ、ほんのチョットした出来心が韓国から中国へと飛び火して、縫製工場から吐き出される偽ブランド品の歩留まりを買い込み販売した。利益率の良さが拍車を掛けた。
ネットの世界では目に付くようになりメーカーからの警告まで受けたが在庫品を処理するまでと変な安心感が裏目に出た。
中古であるが外車を乗り回すようになって反感をかったようだ。
密告とも呼べるタレコミによって、とある警察署のマークがついた。

その日は、蒸し暑い日であった。
いまにも雨が降りそうな雲行きが怪しくなった10時ごろ、インターネット専用の事務所に出社して偽ブランド品を手にした瞬間に警察の捜査が入り逮捕された。待っていたかのように
偽ブランド品を販売目的で手にした商法違反である。

朝夕、仏壇に手を合わせ、先祖を敬う熱心な宗教の心を持った真面目な彼は・・・
悪魔の囁きに乗ってしまった。
テンヤワンヤの大騒動が始まった。友人のひとりである私は、渦中の彼が戻ってくるまでショップで働くみんなと心配する家族へと微力ながらサポートに回った。
なにしろ、数あるパソコンを用意して、商品を良く見せるための画像修正の手解きやネット販売のイロハを助力したのは、紛れもなく友人である私であった。

罪を認め反省を示していたので罰金刑の略式であろうと高を食っていたが、検事の非情なる結論は起訴だった。留置されている彼に面会に行き、ただただ落ち込んでいる彼に励ましの言葉はなかなか出てこなかった。笑いを誘う雰囲気になれず、買い求めた本や雑誌を差し入れした。

後日談として・・・。読む時間はたっぷりある中で
差し入れた宮沢賢治特集は、暗くてより一層に落ち込み心が重かったと云われた(笑)

規定いっぱいの23日間の拘留を経て保釈金300万円で解き放たれた。
知り合いの弁護士を立てて裁判に臨み検事の求刑を聞いた。罰金の量刑がなかったことが想定外となり実刑に近づいたと読めた。
証人として証言台に立った奥様との二人連れは、暗くて長い道のりを歩いているようだったらしい。
公判が終わるとすぐに奥様から電話を戴いたが、肝心の本人は口が開けられないほどに落ち込み沈んでいると奥様から告げられた。
起訴状には私の名前が何度もでたようだ。その場にいなくて良かった。

それから二週間後の判決公判。
奥様は無情な姿を見たくないと判決を聞くのを避けられた。代わりに私がこの目でしっかりと見てくることになった。彼の心は、今までの人生でドキドキ感は常にあったが、これほどのドキドキは初めてだと、六大学の合格発表の時もドキドキしたが、それ以上のドキドキがあり、笑いを誘う私の言葉にも反応は薄かった。
トイレに行く回数が多くなり、居ても立ってもいられないことを証明していた。
もしかして・・・執行猶予がつかなくて実刑になったらどうしようと、拘置所が脳裏をかすめる。
罰金の量刑がなかったので有りえる話かも知れないと検索したネット上では書かれていた。
心臓のパクパクに拍車がかかった。
弁護士との打ち合わせを終えて115法廷に入った。
天国か地獄かの分かれ目の時間は刻々と近づいてきた。
・・・刑の執行を三年間猶予する」崩れ落ちそうになった彼を見つめていた。

奥様がとて気にしていた罰金の付加はなかった。300万は戻ってくる。
資金繰りが苦しい事情を涙ながらに訴えた陳述が効いたのかも知れない。
肩を組み懐かしい香りのする銀座に出た。
有楽町のスタンドbarに入り、生ビールと水割りで乾杯した。

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駐車違反でも、執行猶予は取り消されるよと脅迫しておいた。
反省に立って外車は売り払うようだ。

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