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NHK ラジオ文芸館 「かぶき大阿闍梨」を聴いた

NHKの土曜日の朝はラジオ文芸館で短編小説のラジオドラマを聴くことが多い。
4月4日の土曜日は竹田真砂子著「かぶき大阿闍梨」を聴いた。

市村竹之丞は市村座の座元をつとめる人気役者。見物人に「極楽浄土をお見せする」ために幕府ご禁制の贅沢な衣装に身を包み傾き(かぶき)の道を求めている。
1日に1両を稼ぐ当代きってのスターなのです。

豪華絢爛の行く末に不安など微塵も感じさせません。
そんな折りに1対1の勝負を挑まれた。その日から自信満々であった竹之丞の気持ちが少しずつ変化していくのです。

聴き終えるとすぐに目頭が熱くなり留めもなく涙がこぼれた。

Kabuki_2

                  ART SETOUCHI~傾き者まかり通る~より画像借用

人気絶頂の竹之丞は舞台に上がりやんやの喝采を浴びている。客席は青空天井で晴れた日は良いのだが、一旦雨が降ると軒先のある場所に逃げ惑い、雨を避け遠目に竹之丞の舞台を見ることになる。ある日、突然の豪雨で見物人が非難する中、雨に当たりながら身じろぎもせずに竹之丞の舞踊を見続ける男がいた。

竹之丞は思った。
豪雨の中、ただ一人舞踊を見つめる男がいる。これは1対1の真剣勝負である。
この男に極楽浄土を見せてやろうと踊った。
最後まで踊り切った竹之丞は高熱でうなされ意識を失う。見続けた見物人の男も正座したまま意識を失っていた。

竹之丞は先日来、雨のなか意識を失ってまで舞踊を見続けた男のことが気になって仕方がない。
また、若衆としての人気も陰りが出始めた。若衆は痩身で柳腰が通り相場であるが竹之丞は年とともに身体が大きくなり、見物人に痩身に見せるために衣装でごまかしていた。

雨の中の男を探し楽屋に連れてきた。
男は義助と云って仕立て職人の下職をしていた。

「すまなかったね~ 忙しいのに呼び出したりして」
「へぇ」義助は無口で無愛想で楽屋の隅に背を丸めて座っていた。
その姿はまるで四辻にいる道祖神のようであった。
義助は少ない給金から竹之丞の芝居を見たい一心で木戸銭を溜めたのだなと思っていた。

竹之丞は無口で無愛想な義助を見て、何の取り柄もない仕立て職人に「極楽浄土を見せようと」真剣勝負を挑んだ自分に腹がたっていたが、ふと義助の膝のうえに無造作に組まれている義助の手に目を留めた。きれいな指先をしていた。
十本の指の爪はきちんと切りそろえられ磨かれている。

「手入れをしなさるのかい、その指さ」
「へえ。朝晩糠で擦るでがんす」と云った。

いちいち感に触る男だ。
「もう帰って良いよ」と云いたかったが、そのうちに帰るだろうと気にも留めなかった。
さっき仕立屋から届いたばかりの衣装を義助の前で着てみせた。
竹之丞は義助に「豪勢なものだろう」

聞かれて義助は衣装に目を送り「上手に仕立ててありなさるだね」
見事でも美しいでもなかった。

義助は続けて
「この衣装は袴を付けてなさるから心配ね~でがんす」
「だが小袖の仕立てはね、少し裾を窄める方が良いでがんすよ」
「腰が細く見えやすもんね」

義助のいままでの寡黙なまでの無口はなんなんだ?
竹之丞は血の気が引く音が聞こえた。

終生若衆を貫くつもりでいたが身体が大きくなり柳腰の若衆が難しくなっていた。
この愚鈍な仕立て職に見抜かれた。わたしの芸に見惚れていたのではなかったのだ。
この体つきを見て悲しかったに違いない

よし、次の狂言では袴を付けないで舞踊するので、そんなに立派な腕をお持ちなら裾搾りの小袖とやらを縫って貰おうじゃないか
早速男衆を呼び寄せ布地を取り寄せた。
「白小袖と墨染め衣だよ 明日のお昼までに持って来て貰おう」
義助は楽屋を後にした。

翌日のお昼近くに義助は楽屋にやって来た。

白小袖に黒衣を手に取ると、針など持ったこともない竹之丞も良し悪しは判る。
「衣装を手にした瞬間、なんなんだこの衣装は・・・」
すぐに部屋着を脱ぎ捨て、邪険に白小袖を掴み身に付けると「なんてやさしいだ」
裾を搾らなくても小袖の方から寄ってくる
すっきりとした見事な柳腰が出来上がった。

舞台に上がった竹之丞は昨日までは重ね着をしていたので所作にぎこちなさがあったが、今日は違う、手の動き、足の運び、振り回す刀の所作も何の支障もなく出来た。

これは義助の手柄ではない 布地が良いからだと
まだ正直にはなれなかった。

無心になって舞踊が出来た。 幕が閉まった。
竹之丞は精魂とも尽き果て、腰を落とし息が苦しかった。

観客席は静寂に包まれシーンとしていた。
すると、一瞬の間を置いて うぉ~~~~~~~~~ッ
と、轟の波が押し寄せてきた。

竹之丞がいままで味わったこともない震えが全身を襲ってきた。

楽屋に戻るなり義助に向かって「良い腕だ どんな縫い方をしたんだ?」
義助は応えた「へぇ、針と糸で縫うでがんす」
道祖神の声であった。

今日の今日まで若衆として命がけで積み重ねてきた精進が音を立てて崩れた。
竹之丞の視線の先には、果てしない荒野が広がっていた。

竹之丞は己で決めた最後の舞台に立った。

無事に舞踊を終えると舞台の中央に座り 前髪を垂らし
「長年ご贔屓に感謝を述べ、市村竹之丞、未だまだ傾き(かぶき)が足りませぬ。
生まれながらの無垢な者に成りたい一心で本日を持ちまして衣を脱ぎ替えます。

精進を重ねた暁には、いずれ様のもとにお目見え、極楽浄土をお目にかける所存であります。」と口上を述べ、深々と頭を垂れて観客席の中央を通って出て行った。

行く道は一筋。

竹之丞は比叡山に出家した。

後年。竹之丞は大阿闍梨となって自性院を開基する
参詣者の中には竹之丞を知る者は竹之丞寺と呼び親しんだ。

義助のように無垢で正直な人に上品上生の極楽浄土が見せられるか。
この一念に駆られている。

義助はいまも仕立て職人の下職である。
衣替えの季節になると自性院を訪れ住職の衣を洗ったり、仕立直しをしたりして入れ替えていく。

「義助どん 紅葉が見事じゃないか」
「和尚さまよ~ まこち極楽でごぜえますだよ~」

まだまだどうしてどうして義助は手強いな~。


聴き終えて、目頭が熱くなり涙がでた。
留めなく涙がこぼれた。

義助の無垢が涙を誘い
竹之丞が華やかな舞台を降りた。その時に涙は溢れた。

せごどんを思い出し、田原坂を口ずさんだ。

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コメント

いもがらぼくと様

こんばんは。
物語の詳しい内容にびっくりしました。
私も書くことが大好きですので、
また読ませていただきます。

とりあえず。

投稿: のざわ | 2015年4月 6日 (月) 20時38分

cancer
のざわさま
お越しいただきありがとうございます。

忙しさにかまけて殆ど更新していないブログです。
義助の無垢な心に胸を打たれて、また稚拙なブログを続けて
みようと思った次第です。
書き方すら忘れてしまい、もうメチャクチャです。

のざわさまの感想文を読ませて頂き、もう穴があったら
入りたい心境になりました。
勉強させてください。

またお邪魔します。

投稿: いもがらぼくと | 2015年4月 7日 (火) 13時21分

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