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藤沢周平「本所しぐれ町物語」・・・約束

まとめるのが下手で長文です。

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NHKラジオで聴く短編小説を時折り聴いています。数週間前に藤沢周平「秘密」を聴いたのが切っ掛けでブックオフに行って藤沢周平の短篇集の文庫本を6冊ほどまとめて購入した。
「時雨のあと」「雪明り」「闇の穴」「日暮れ竹河岸」「本所しぐれ町物語」「神隠し」どれも下級武士の葛藤があり武士としての面目が描かれていたり、決して大きくない大店の店主が逢瀬に走ったり、裏店(長屋)に住み日々の暮らしの悲哀が散りばめれている。一気に読み進めた。

その中でも「本所しぐれ町物語」はオムニバス風になっていてしぐれ町の日々が描かれ江戸の町並みが広がる。

『秋』でおきちが登場する。

名はおきちと云った。
母親が二年前に死んでおきちが幼い弟と妹の面倒をみている。
母親が死んでから父親(熊平)は飲んだくれの日雇いで日々をしのぎおきちは母親代わりになった。
路地裏の裏店(長屋)に住むおきちは10歳であった。

油売りの政右衛門はおきちの汗ばんでいる手に握りしめてきた古徳利に種油一合の他におきちのがんばりに多めに種油を注いだ。

「旦那さん」
「いいんだ、おまけだよ」
「でも困ります 旦那さん」
「おきちは一瞬、泣き出しそうに顔をゆがめた。そして深々と頭を下げて戸口から出て行った」

後日
おきちの父親が政右衛門の店にやって来て怒鳴り込み
おきちの父親は政右衛門に向かって正論を述べる。

「おまえさん、娘が一合の種油買いに来たのに五合計ってくれたと云うじゃないか」
「そう云うことをされちゃ、迷惑なんだよ」
「わっちはね、子供にはひとの物を盗むな、ひとからめぐみを受けるなって言っているんだ。貧乏はしているが乞食じゃねぇや。油がなきゃ、起きてねぇで寝ればいいんだよ」
「今度よけいな情けをくれやがったら、承知しねぇよ 子供のためにならねぇんだよ」

政右衛門は酔っ払っているが熊平の言い分には道理が含まれていると感じていた。

10歳と云えば小学4年生。しかも数えの10歳だから今の小学3年生辺りでしょうか
飲んだくれで稼ぎのない父親に尽くして、弟や妹の面倒を見ている。

ビッグコミックオリジナルに連載されている西岸良平「三丁目の夕日」に時折り、飲んだくれの父親に「酒買って来い!」と云われて、しぶしぶ酒を買いに行き「ツケがだいぶ溜まっている」と店主に嫌味を云われても気丈に振る舞いけなげな小学生の娘が描かれている
三丁目の夕日(夕焼けの詩)とおきちがだぶってみえる。

『約束』におきちの今から起きる運命が語られている。

おきちは弟と妹を寝かしつけると父親の帰りを待っていたが
その夜は夜半を過ぎても父親熊平は戻ってこなかった。
父親を探しに暗い夜道を探しに出る
「どこかで酔いつぶれて寝ているのではないだろうか」と心配する。

熊平がいつも飲んでいる「おろく」まで足を伸ばし覗いてみたが熊平はいなかった。
女将から「さっき帰ったよ あ~それからね」
女将の口からおきちの胸にグサリと刺さる。恐れていたことが突きつけられたのだ
「このごろあんたのおとっつぁんには困っているのよ。古いお馴染みだから来れば黙ってツケで飲ましているんだけど、たまには払ってもらわなきゃ困るのよ」
おきちは謝りながら店をあとにする。

おきちは知っていた。お金がないのに毎日毎日飲めるのか不思議だったが
小さな胸に恥辱感があふれた。
おきちの家では方々からツケ買いをしていた。
米屋・味噌屋・にもツケをしていた。晦日払いでも払えないのを承知してツケをお願いした。まさか飲み屋までツケをしているなんて・・・おきちは涙がこぼれてきた。

酔っ払った熊平は水路に倒れていた。
10歳のおきちには熊平を陸にあげることが出来ずに、暗闇を走りながら助けを求めたが通りには誰もいなかった。必死になって足を引っ張りどうにか引き上げたが熊平はぴくりとも動かなかった。

いつもは規則的ないびきをしている熊平であったが、倒れてからと云うものはいびきが不規則になり大きくなった。意識は以前として戻ってこない。

医者にみせたい。
家には金がない。
白装束の祈祷師は祈っただけで三十文を取られた。
その上に、熊平が倒れたと聞いて、甚五郎なる見知らぬ男がやって来た。
「熊さんのぐあいはどうだい」
「熊さんに金を貸してあるんだ・・・一両と二分 大金だよ 分かるかな」とおきちに攻め寄った。
おきちは、怯えている弟や妹を抱きながら「父親は何のためにお金を借りたのですか?」と聞いた。
父親が博打に手を出していたことは初耳だった。
それでもおきちは気丈に「証人はいますか?」と聞いた。

10歳の子どもが親の借金取りに対して怯まず対応しているのに驚かされた。

見知らぬ男が帰るとおきちは放心状態になっていた。
----こんなにもあちこちに------。借金があるとは思わなかった。

どこかで金を都合して、先ずは父親を三丁目の医者に診てもらうことが先だと思った。
もしこのまま、父親が死ぬようなことがあると、おきちたちはじきに暮らしの金に困り、それだけはない、飲み屋のツケ、甚五郎の借金・近所の借買いはすべておきちに降り掛かってくる。

祈祷師は内緒で金貸しをしていることをおきちは知っていた。
五百文を借りたいとおきちは云った。
祈祷師のおつなは金貸しだが、返済の目処の立たない者には決して貸さない。
おきちは頭を下げている。
おつなは簡単には金は貸さない。ましてや働きも担保のない子供には十文だって貸すつもりはなかった。
しかし、おきちはお願いすると、あとは貝のように口をつぐみ座っていた。
五百文を貸して貰うまでは、ここを動くまいと思っていた。

しびれを切らした金貸しのおつなは云った。
「医者に見せたって無駄だよ おとっつぁんは助からないよ 役に立たない借金はおやめ」
それを聞いたおきちは顔を手で隠してしくしくと泣きだした。それまでおきちの背中で大人しくしていた妹が激しく泣きだした。

金貸しのおつなは「悪かった 言い方が悪かった」「五百文、貸してやるよ」

おきちは借りた五百文で三丁目の医者に診てもらった。
金貸しおつなの言う通りだった。医者はひと通り診たが、薬も呉れずに三百文の金を受け取って帰っていった。
その次の日に熊平は死んだ。

おきちは金貸しおつねに会いに行った。
「大変だったね ひととおり片付いたかね」「子どもたちは・・・?」
「弟は大家さんの世話でもらわれて行きました。妹はまだ小さいので長屋のひとが預かってくれることに・・・」

おつねは云った。
「あんたに貸した五百文は、いずれ家の中の物を売るだろうから、その時に証文を立てに貰うけど良いかな?」
「はい それで良いですけど・・・」
「おばさん またお金を貸してくれませんか 今度は二両です」
「エッ二両?」おつなビックリした。
「二両なんて大金を、子どもあんたがどうするつもりだね」

父親が借金をしていました。
死んだと聞いて甚五郎はすぐにやって来て借金の催促に来ましたが
その借金でご飯を食べていたかも知れません 知らないふりは出来ません
それに、あたしが知らないふりをして、死んだおとっつぁんがみんなに悪く思われるのは可哀想です。

飲み屋のツケ・近所で晦日払いのツケを払おうと思います。
「変わった子だね あんたも」
「まるで大人みたいな事を云って」
「10歳の子どものやることじゃないよ」

貸してやるよ しかし条件がある
その条件で良ければ貸してあげる とおつねは云う。

奉公にでてもすぐにお給金になるわけではない
10歳の奉公であれば、住みこんでおまんまが食えるだけで精一杯だよ
同じ奉公でも二両になる奉公もあるとおきちに説明をした。

おきちは金貸しおつねの条件をのんだ。
おきちは10歳の身で女郎屋に行くことを承知したのです。
這い上がることの出来ない裏の世界に身を投じたおきちは何を思ったのだろう

二両の金をおつねから借りたおきちは、借りた五百文を払い、甚五郎に一両二分を払い、飲み屋のツケや晦日払いになっている米屋・味噌屋・油屋にも払った。

払い終わっておきちは晴れ晴れとなった。
幼い弟と妹とは別れ離れになってしまったが、いつの日か会える日が来ることを念じていた。

おきちの事は自身番でも評判になっていた。
熊平が死んでおきちが借金を精算したと話は広がっていた。
油売りの政右衛門はビックリして二両は私が立替えても良いと発言した。

おきちは安蔵が仲介して新石場の小松屋で働くことになった。
安蔵と云えば女衒ですよ。自身番で話題になった。
奉公先の小松屋は岡場所の女郎屋である。

おきちは二両の借金のかたに身を売ったのでした。
まだ間に合うでしょうか・・・政右衛門は居ても立っても居られなかったが、決まったことを覆すことは無理だった。

風呂敷包みを持つおきちと女衒の安蔵は自身番の木戸まで来て振り返り

「みなさん おせわさまでした」

おきちは一人前の大人のように云った。
そして、言い終わると同時におきちは手で顔を覆い激しく泣きだした。
泣きじゃくりながら木戸を出て行った

見送っていた人々は一斉に涙を流した。


何と言う読後感なんだろう・・・読み終わり胸が熱くなり涙がこぼれた
この後のおきちが知りたい。
女郎であるが身請けされ幸せになって欲しいと願った。

現代におきちはいるのでしょうか
まだ10歳の小学4年生です。

本編では終わりの方でおきちが再び登場する。

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日本語の起源・言霊百神

投稿: コトタマ学 | 2015年9月12日 (土) 21時43分

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