文芸

山本周五郎「晩秋」をBSジャパンで観る

Madou

大好きな山本周五郎中短編秀作選集2の「惑う」の中に収められている「晩秋」
と云う短編小説があります。

藩の財政破綻を回避するために、冷酷なまでに年貢の取り立てを厳しい施策を打ち出した用人進藤主計に施策の過ちを諫言し切腹させられた浜野新兵衛を父に持つ娘「都留」は進藤主計は親の仇です。

主君が代替わりして進藤主計の施政が裁かれることになり進藤主計は家老別宅に蟄居され都留が進藤主計の身の回りの世話係を仰せつることになった。
父の怨念を晴らすために懐刀を離さずに隙きを狙っていた。

進藤主計の日々に接するといつしか都留の心に変化が現れる。
礎を造る過程で避けて通れない施政の中で父が切腹になったことを進藤主計が心に深く傷ついたことを知る

原作は都留の想いと進藤主計の想いが交差していたものが少しずつ重なり合ってくる。
涙腺が緩みそうな展開になってくるのです。

そして・・・
BSジャパンで山本周五郎時代劇 武士の魂「晩秋」を観た。
原作のあの素晴らしい心の葛藤が・・・
原作が台無しだった。

進藤主計と都留が碁を楽しむシーンに何の脈絡もなくビックリした
黒装束の討ってが現れれ進藤主計と都留は屋敷から逃げ出し市中を放浪する
放浪中に進藤主計が足軽時代に産ませた娘を探す 進藤主計は足軽出身だったのかと感心するが原作には足軽の「あ」の字も出てこない
都留は頻繁に懐刀を抜くが原作には出てこない
都留の前に母の亡霊が現れて進藤主計を討て!と檄を飛ばすが亡霊がね・・・

山本周五郎の秀作が見事なまでに三流ドラマに仕立て上げられていた。

| | コメント (0)

NHK ラジオ文芸館 藤沢周平「秘密」

 

Shigure_2

NHK ラジオ文芸館で藤沢周平「秘密」を聴いたが肝心な場面で席を外し聴きそびれてしまったのでブックオフで探し新潮文庫「時雨のあと」に収録されている「秘密」を読んだ。
由蔵は代を譲って隠居生活をしている。
天気の良い日は切り石に腰をおろし日長な時間を過ごしていた。76歳になった由蔵は手足が衰え杖がないと歩くことも困難で耳も遠くなっていた。

その日は、代を譲った康次郎の女房おみつが髪を結ってくれた。由蔵は髪を結っている時にある女の事を思い出していた。

「あの女は誰だったのだろう?」

由蔵は思い出そうとするが、頭の中が混乱して分からなくなってしまった。
切り石に座りぼんやりと2~3間先を眺めていると、若気の至でたった一度の悪事を思い出していた。

由蔵は小さな筆匠鶴見屋で手代をしていた。
毎日、外回りに出かけお得意さまに注文の品をお届けに上がり、次の注文を頂いてくる。また新たな得意先にも精を出し寺院や画商をはじめお屋敷などを顔なじみになるまで門を叩き、筆や和紙の注文を貰ってくる。真面目な性格で主人や番頭の受けも良かった。

ひっそりとしたお屋敷に品物を届けた時に門番にいた中間に声を掛けられ、思いもかけない賭事に引き込まれた。
「お茶でも飲んでいかないか」と誘われ、喉が乾いていた由蔵は屋敷の一角で行われていた賭場に足を入れてしまった。見た以上はただで帰すわけには行かない!と脅され、花札を手にした。

賭事に負けた由蔵に反省はなかった。
由蔵は負けた悔しさが募り、外回りで時間を作っては賭場に足繁く通うようになった。
賭事に夢中になった由蔵は、住み込みの部屋に戻り丁稚奉公から爪に火を灯すように努力して少しずつ貯めてきた柳行李の中に手を入れてガックリとうなだれた。
貯めてきた3両もののお金が無くなっていた。

それでも由蔵は賭事に夢中になった。
3両を取り戻したい一心だったが由蔵にはある予感があった。
予感は現実となって現れてきた。

中間の辰平は由蔵を連れ出し凄んだ
「さぁ、性根据えて返事しろよ!」
「貸した金が、五両になったのは分かっているな!」
「出来ないことは分かっている!」
「鶴見屋に乗り込み主人に貰うだけさ!」辰平は笑い「明日までに支払って貰う!」と刻限を切った。
由蔵は黙ることしか出来なかった

借金までして博打を続けたことを今更のように後悔した。店に来られては困る。
鶴見屋を放り出され野垂れ死の人生が待っている。

刻限を切られた時間が刻々と近づいてくる
仕事が手に付かない由蔵は自分の部屋に戻ると天井を眺めていた。
悪意が芽生えた。今日に限って幸いにも主人が出かけた。

意を決して震える足を忍ばせて茶の間に忍び寄り、当座の資金が眠っている茶箪笥に手をかけた。五両を手にして梯子の方に歩いた時に確かに人影が目に入った。
確かに女だった。

「わたしは誰にも言いません。あなたも、私に見られたことを忘れてください」
と確かに聞いた。

女の声だと思いだしているのに顔を思い出すことが出来ない。
由蔵は女に見逃して貰った。

それからと云うものは博打とは縁を切り、今まで以上に仕事に精を出し三年後には働きぶりが認められ鶴見屋の婿になった。
ただ、当座のお金で五両ものの大金が紛失したのだから、大変な騒動があった筈であるが無事に乗り切ったことで由蔵の記憶から消えていた。

由蔵はたった一度の悪事を思い出しながら女の顔を思い浮かべた。
鶴見屋の婿になった由蔵の働きで鶴見屋は繁盛していった。夫婦仲は喧嘩もなく円満に過ごしたが16年ほど前に女房のお若は死んだ。

由蔵は死んだお若の事を思い出していた。
あの時、由蔵の盗みを見逃してくれたのは女房のお若だったのだとハッキリ思い出していた。お若は由蔵の盗みを誰にも云わずに由蔵に尽くして来たのである。

お若と夫婦になってお若に一度だけ云われたことがあった。
「あのとき廊下でチラッとみた女の姿がお若だった」と知ったが、今のいままで女の事を思い出すことはなかったが、たった一度の悪事でお若を思い出した。

夫婦仲が良かったのは、誰にも云えない二人の秘密があったことがあったのかも知れないと思った切羽詰って手を出した盗みをお若が秘密にしてくれた。仲が良かったのはお若が由蔵を愛していたんですね。

由蔵の人生をお若が助けてくれた。夫婦は二人三脚なんだと思います。

| | コメント (4)

朱川湊人「いっぺんさん」を聴く

Hokora

NHK文芸館 朱川湊人「いっぺんさん」を聴く

朱川湊人と云えば以前「スメラギの国」を読んだことがある。
これは読んだとは云えない。猫に惹かれて読み始めたが、これがなかなか進まない。
栞を挟んで積読の中に埋もれてしまい、内容すら思い出すことが出来ないほど困難な本だったので、ラジオ短編ドラマ 朱川湊人作と聞いた時は、あの厄介な作者かと思ったほどである。

厄介な作者と云えば学生時分に大江健三郎著「万延元年のフットボール」を読んだ時は、見開き半ページで放り投げた。「お前らに俺の書く高度な文章が分かってたまるか!」と鼻持ちならない高慢な自意識が臆面もなく表現されていた。
訳の分からない難解な文章が人を惹きつけるなどと思っていらっしゃるのではなかろうか。何か勘違いされているとその時は思った。
後年、ノーベル文学賞を受賞するに当たってノーベル文学賞も地に落ちたな。と私。


-------------------------------------------------

バカで間抜けなしーちゃんと私(うっちん)は大の仲良し。
しーちゃんは前歯が欠けていた。

しーちゃんは白バイの警官になりたい将来の夢があった。私はしーちゃんの夢を叶えられるように「いっぺんさん」の事を叔母から聞いて試してみようと思っていた。しーちゃんに「いっぺんさん」の事を話をすると、しーちゃんは白バイの警官の他にもう一つの夢を語ってくれた。
それは、お父さんが乱暴者で家族に暴力を振るっていた。しーちゃんは早く大人になって家族の盾になりお父さんの暴力から守ってあげたい願いがあった。
一度しか叶えてくれない「いっぺんさん」へお参りに行こうと二人で出かけた。

二つの願いをひとつにしようと決まり「早く大人になって白バイの警官になりたい」になった。「いっぺんさん」へお願いするにも、お祈りにはある作法があった。
境内の土を掘って出てきた小石を誰にも見せないで、持って帰り小石に向かって毎日拝むこと。

小石に願いをしている時にしーちゃんは病気で倒れた。
願いは「早く大人になって白バイの警官になりたい」から「早く病気が治りますように」に変わったが、願いも虚しくしーちゃんは脳腫瘍で亡くなった。

しーちゃんが亡くなって寂しくなった私は「いっぺんさん」にお祈りに行った。
願いは「しーちゃんに会わせてください」と境内から小石を持って帰り祈った。

しーちゃんが亡くなって寂しくしている私を励まそうとお父さんは家族で車でハイキングに出かけたがハイキング先で弟が足を滑らせ顔を石にぶつけて意識不明になり、急いで病院に行こうとするが渋滞に嵌ってしまう。

私は首から下げた「いっぺんさん」の小石を握りしめ「しーちゃんに会わせてください」の祈りから「弟を助けてください」の祈りに変わった。

渋滞している車の後方から白バイがやって来た。
お父さんが白バイを止めて、事情を説明すると白バイは「了解しました」「病院まで先導しますので後を付いてきて下さい」と渋滞から抜け出し、病院に辿り着いた。
病院ではストレッチャーが用意され意識不明の弟を待っていた。

白バイの警官は私を見て「きっと治るよ うっちん」と云った。
良く見ると白バイの警官は前歯が欠けていた。
そして白バイの警官は姿を消した。

しーちゃんが白バイの警官になって私の前に現れたのかな
しーちゃんが気にしていたお父さんの暴力は、しーちゃんが亡くなったことでしーちゃんのお父さんは心から悔い改め、定職に就き暴力を振るわなくなっていた。
しーちゃんは、家族を守ってくれた。のであろうか。

意識不明から助かった弟は白バイの警官になった。
私はと云うと紆余曲折があったが小児科の先生になった
しーちゃんがそうさせたような・・・。

一度しか願いを叶えてくれない「いっぺんさん」はしーちゃんが望んだ「早く大人になって白バイの警官になる」「お父さんの暴力から家族を守りたい」夢と私の「しーちゃんに会わせて下さい」「弟を助けてください」の四つの夢を叶えてくれた。

「いっぺんさん」は、人々が街に移って誰も参拝に来なくなって寂しくしていた。そんな時に子どもが必死になって拝みに来てくれたので「いっぺんさん」も嬉しかったのですね。しーちゃんの病気だけは神さまも難しかったようです。

-------------------------------------------------

神さまのお参りの方法

私は小さい頃に母から
神さまへお願いする時は、境内で人が余り歩いていない場所の丸くて平べったい石を塩と水で清めて、石に願い事を書き、裏には氏名・年齢・性別・大まかな住所を書いてお賽銭箱の下に置いてくると良いと聞いた。

お賽銭箱の下に置けば参拝する人が手を合わせる度に祈ってくれる。と。

| | コメント (0)

NHK ラジオ文芸館 「かぶき大阿闍梨」を聴いた

NHKの土曜日の朝はラジオ文芸館で短編小説のラジオドラマを聴くことが多い。
4月4日の土曜日は竹田真砂子著「かぶき大阿闍梨」を聴いた。

市村竹之丞は市村座の座元をつとめる人気役者。見物人に「極楽浄土をお見せする」ために幕府ご禁制の贅沢な衣装に身を包み傾き(かぶき)の道を求めている。
1日に1両を稼ぐ当代きってのスターなのです。

豪華絢爛の行く末に不安など微塵も感じさせません。
そんな折りに1対1の勝負を挑まれた。その日から自信満々であった竹之丞の気持ちが少しずつ変化していくのです。

聴き終えるとすぐに目頭が熱くなり留めもなく涙がこぼれた。

Kabuki_2

                  ART SETOUCHI~傾き者まかり通る~より画像借用

人気絶頂の竹之丞は舞台に上がりやんやの喝采を浴びている。客席は青空天井で晴れた日は良いのだが、一旦雨が降ると軒先のある場所に逃げ惑い、雨を避け遠目に竹之丞の舞台を見ることになる。ある日、突然の豪雨で見物人が非難する中、雨に当たりながら身じろぎもせずに竹之丞の舞踊を見続ける男がいた。

竹之丞は思った。
豪雨の中、ただ一人舞踊を見つめる男がいる。これは1対1の真剣勝負である。
この男に極楽浄土を見せてやろうと踊った。
最後まで踊り切った竹之丞は高熱でうなされ意識を失う。見続けた見物人の男も正座したまま意識を失っていた。

竹之丞は先日来、雨のなか意識を失ってまで舞踊を見続けた男のことが気になって仕方がない。
また、若衆としての人気も陰りが出始めた。若衆は痩身で柳腰が通り相場であるが竹之丞は年とともに身体が大きくなり、見物人に痩身に見せるために衣装でごまかしていた。

雨の中の男を探し楽屋に連れてきた。
男は義助と云って仕立て職人の下職をしていた。

「すまなかったね~ 忙しいのに呼び出したりして」
「へぇ」義助は無口で無愛想で楽屋の隅に背を丸めて座っていた。
その姿はまるで四辻にいる道祖神のようであった。
義助は少ない給金から竹之丞の芝居を見たい一心で木戸銭を溜めたのだなと思っていた。

竹之丞は無口で無愛想な義助を見て、何の取り柄もない仕立て職人に「極楽浄土を見せようと」真剣勝負を挑んだ自分に腹がたっていたが、ふと義助の膝のうえに無造作に組まれている義助の手に目を留めた。きれいな指先をしていた。
十本の指の爪はきちんと切りそろえられ磨かれている。

「手入れをしなさるのかい、その指さ」
「へえ。朝晩糠で擦るでがんす」と云った。

いちいち感に触る男だ。
「もう帰って良いよ」と云いたかったが、そのうちに帰るだろうと気にも留めなかった。
さっき仕立屋から届いたばかりの衣装を義助の前で着てみせた。
竹之丞は義助に「豪勢なものだろう」

聞かれて義助は衣装に目を送り「上手に仕立ててありなさるだね」
見事でも美しいでもなかった。

義助は続けて
「この衣装は袴を付けてなさるから心配ね~でがんす」
「だが小袖の仕立てはね、少し裾を窄める方が良いでがんすよ」
「腰が細く見えやすもんね」

義助のいままでの寡黙なまでの無口はなんなんだ?
竹之丞は血の気が引く音が聞こえた。

終生若衆を貫くつもりでいたが身体が大きくなり柳腰の若衆が難しくなっていた。
この愚鈍な仕立て職に見抜かれた。わたしの芸に見惚れていたのではなかったのだ。
この体つきを見て悲しかったに違いない

よし、次の狂言では袴を付けないで舞踊するので、そんなに立派な腕をお持ちなら裾搾りの小袖とやらを縫って貰おうじゃないか
早速男衆を呼び寄せ布地を取り寄せた。
「白小袖と墨染め衣だよ 明日のお昼までに持って来て貰おう」
義助は楽屋を後にした。

翌日のお昼近くに義助は楽屋にやって来た。

白小袖に黒衣を手に取ると、針など持ったこともない竹之丞も良し悪しは判る。
「衣装を手にした瞬間、なんなんだこの衣装は・・・」
すぐに部屋着を脱ぎ捨て、邪険に白小袖を掴み身に付けると「なんてやさしいだ」
裾を搾らなくても小袖の方から寄ってくる
すっきりとした見事な柳腰が出来上がった。

舞台に上がった竹之丞は昨日までは重ね着をしていたので所作にぎこちなさがあったが、今日は違う、手の動き、足の運び、振り回す刀の所作も何の支障もなく出来た。

これは義助の手柄ではない 布地が良いからだと
まだ正直にはなれなかった。

無心になって舞踊が出来た。 幕が閉まった。
竹之丞は精魂とも尽き果て、腰を落とし息が苦しかった。

観客席は静寂に包まれシーンとしていた。
すると、一瞬の間を置いて うぉ~~~~~~~~~ッ
と、轟の波が押し寄せてきた。

竹之丞がいままで味わったこともない震えが全身を襲ってきた。

楽屋に戻るなり義助に向かって「良い腕だ どんな縫い方をしたんだ?」
義助は応えた「へぇ、針と糸で縫うでがんす」
道祖神の声であった。

今日の今日まで若衆として命がけで積み重ねてきた精進が音を立てて崩れた。
竹之丞の視線の先には、果てしない荒野が広がっていた。

竹之丞は己で決めた最後の舞台に立った。

無事に舞踊を終えると舞台の中央に座り 前髪を垂らし
「長年ご贔屓に感謝を述べ、市村竹之丞、未だまだ傾き(かぶき)が足りませぬ。
生まれながらの無垢な者に成りたい一心で本日を持ちまして衣を脱ぎ替えます。

精進を重ねた暁には、いずれ様のもとにお目見え、極楽浄土をお目にかける所存であります。」と口上を述べ、深々と頭を垂れて観客席の中央を通って出て行った。

行く道は一筋。

竹之丞は比叡山に出家した。

後年。竹之丞は大阿闍梨となって自性院を開基する
参詣者の中には竹之丞を知る者は竹之丞寺と呼び親しんだ。

義助のように無垢で正直な人に上品上生の極楽浄土が見せられるか。
この一念に駆られている。

義助はいまも仕立て職人の下職である。
衣替えの季節になると自性院を訪れ住職の衣を洗ったり、仕立直しをしたりして入れ替えていく。

「義助どん 紅葉が見事じゃないか」
「和尚さまよ~ まこち極楽でごぜえますだよ~」

まだまだどうしてどうして義助は手強いな~。


聴き終えて、目頭が熱くなり涙がでた。
留めなく涙がこぼれた。

義助の無垢が涙を誘い
竹之丞が華やかな舞台を降りた。その時に涙は溢れた。

せごどんを思い出し、田原坂を口ずさんだ。

| | コメント (2)