舩見公園から見る夕日
彼は、初めての選挙で大量の票を集めて市会議員になった。
選挙期間中は、素人の寄せ集めで選挙事務所を運営していたので、携わるみんなが右往左往していた。そして、その中の一人が私であった。
目出度く当選して、議員さんとなり忙しさが倍増したのであろう、連絡は途絶えていたが、節目ごとに議員活動の会報を住まいまで届けに来ていた。すれ違いで会うことはなかったが
昨日の朝に、珍しく電話が入り「緊急の用件です・・・」と話し始めた。
「ネットワーク設定でプリントサーバを入れたのですがプリント出来ないんです!」と泣きが入っていた。
昨日まで、議会があるとのことで、議会のない日を選んで市役所内にある議員事務所に顔を出した。
予定より早めに着いたので廊下にある椅子に座り、鞄の中に放り込んでいた1Q84を取り出して読み始めた。はなしの展開が二歩進んで一歩下がる、そんな感じで、少しまどろこしい感じがする。
議員がやって来た。
部屋に入るや、「ひさしぶり!」「良い眺めですね・・・」素晴らしい環境です。
議員は勉強会があるとのことで、すぐに3台あるパソコンを開いて確認をする。
確かに、設定時にはプリント出来るが、再起動するとプリント出来なくなってしまう。
ネットワークの概念を破った新しい設定だった。
ダラダラとしながらも2時間ほど掛かってしまった。どうもサーバ本体に問題があるように感じたので、ネットでトラブル情報を探してみたら、100人中50人までが、最悪プリントサーバだと悪評プンプンだった。
1台のPCが使っているときは、他のPCで接続するとエラーが発生すると云ったトラブル情報が一番多かった。ネットワークの意味を持たないプリントサーバだった。
認識しない場合は、パソコンを再起動すると時間も掛かるので、サーバ本体の電源をON/OFFして下さいと伝えてきた。
その後の連絡がないので、上手く使っていることでしょう。
市会議員は選挙で選ばれるが
選挙と云えば苦い思い出がある。
70人学級が10クラスあった中学2年の時にその事件は起きた。
クラスから一人ずつの10名の生徒会長の立候補者を出すことが決められた。
学校からの教育的指導の下での強制。
いまの時代、選ばれる生徒会長のことは分からないが、当時の生徒会長は人望があって、賢くて優秀な生徒が選ばれた。チョットした学年のエリート。
私のクラスには、とんでもなく傑出した人物がいて、全員一致でK君は候補者として選出された。
候補者は応援弁士を選ぶ権利があり、K君の幼馴染だった私は応援弁士として指名された。
神のみぞ知る運命は始まっていたんです。
私は、K君の人となりを書いては破り、書いては破りで原稿をしたためた。
親兄弟を生徒達として見立てて聞かせると、笑っていたが良い良いと喜んでいた。
・・・その日は、緊張の中、静かにやって来た。
全校生徒が集まり、立錐の余地もない講堂で立会演説会は行われた。
I級だったので、演説順番の時間が廻ってくるには、相当に掛かりそうだったのでK君に原稿を見せたりして緊張でお互いの話も笑いも強張っていた。
K君も原稿を目にして「大袈裟だな・・・でも良いか・・・」そんな会話があり 順番が廻ってきた。
原稿を握り締めて、いざ壇上に向かおうとした時に、ふいに
K君が、原稿をもう一回見せてくれる?と、云って、私の原稿を手にした。
K君は私から原稿を手にするや否や、バリバリバリと原稿を破ってしまった。
「あれ~~~~」私の大事な原稿が紙屑となり舞っていた。
破られた原稿が床に散らばり、私の頭は白い世界が広がり、南無・・・チ~ン!
原稿を見なくても、暗記して空で云えるまで覚えていた言葉のひとつひとつが消えていた。
何も喋る事が出来ない宙に浮いているようで文章が窓から逃げていくのが分かった。
それでも、壇上にあがると、マイクに向った。一礼すると
「2年I級の月の砂漠です。生徒会長立候補者として、2年I級のK君を紹介します」で終わった。3秒の展開
紹介されたK君はと云うと。
「ただいま紹介された2年I級のKです」で挨拶を終えた。
二人合わせて5秒の出来事であった。選挙を愚弄している、そんな感じだった。
立会演説会が終わるとすぐに、二人して校長室に連行された。
2時間・・・いや、もっと長かったかな 怒り心頭で口角泡を飛ばす校長・教頭そして担任の唾を避けることも出来ずに、静かに暮れて行く時間を眺めていた。
二度とするまい。応援弁士は嫌だ。