書籍・雑誌

山本周五郎 「女は同じ物語」

山本周五郎の人生の機微を扱う場面に出会うといつも落涙する。
時代小説でありながら決闘場面はあまり出てこない。
葛藤する人情がゆったりと流れてくる。
そんな中で笑みがこぼれた物語があった。

山本周五郎「中短編秀作選集」1【待つ】に収録されている

                --------女は同じ物語----------

Matsu

「まぁ諦めるんだな しょうがない、安永の娘をもらうんだ」と龍右衛門がその息子に云った。「どんな娘でも結婚してしまえば同じようなものだ」と・・・。

梶龍右衛門は二千百三十石の城代家老で一人息子の広一郎は二十六歳である。
梶家では代々行儀見習として一年限りで富裕な商家とか大地主の娘を奉公に入れていた。その年も、許嫁のいる身でありながら女嫌いを立てに自由に闊歩していた。

その女嫌いの広一郎に世話係の侍女をつけたことを事後報告すると
「間違いがあったらどうするんだ!」と父親の意見に奥方(さわ女)は、いつもそんな風に侍女を眺めていたのかと反論する。
梶家では城代家老と云えどもさわ女に頭が上がらないかかあ天下であった。

侍女と云っても召使いです。寝間で襲ったら一生の不覚になり兼ねません。
父親は城代家老で広一郎もゆくゆくは城代家老になることが保証されているんですが
・・・スキャンダルは命取り、切腹の上にお家断絶が脳裏を過ぎたことでしょう。

奥方さわ女は固い信念をもって侍女を用意します。
広一郎は女は嫌いだと言い張っています。
安永つなさんと云う許嫁があるのに女は嫌いだと云っていまだに結婚しようとしません。これは私たちがあまりにも固苦しく育てたからだと思っているんです。
きれいな侍女でも付けておけば女に興味をもつようになるかも知れません。

広一郎についた侍女は
城下で大きく営んでいる呉服商の娘で名前は紀伊と呼ばせた。
これがまた色白の絶世の美女なんです。

広一郎に侍女として世話をするのが三月余り、広一郎は侍女の体つきを見て「温雅が体つきだな・・・」体のしなやかさや弾力ある柔らかなまるみやくびれが美しく現れていた
それに、肌が白いあくまでも白いそのあらわな腕に見惚れてしまった。

半年も過ぎると広一郎は紀伊を話をするようになった。
不思議なことに紀伊に話しかけると広一郎は赤くなるのを抑えることができなかったし、紀伊もまた同じように赤くなったり恥ずかしがる仕草が多くなった。

父と同じ書斎に入って書物を読んでいるに広一郎は空想の世界に入って書物を読み進めることが出来なかった。紀伊の事を思うと気もそぞろだった。

父上! 紀伊は誰かに似ているような気がするのですが

父親の龍右衛門は心配顔でお前は紀伊を好きになったのでないかと問うた。
お前は安永つなと結婚する身だぞ!母さんが承知しないぞ!と忠告する。
くれぐれも好きにならぬようにな 好きになったりすると大変なことになるぞ
父親の龍右衛門は案じるばかりだった。

梶家での行儀見習は1年です。すでに半年が過ぎようとしていた。
寝間で着替えていると紀伊がひどく沈んでいる様子が伝わってきた
「母上から叱られたのか?」

嫌いな人との縁談が持ち上がっていることと好きな人が別にいることを打ち明けたが、紀伊は耳まで赤くなり激しく息をしていた。

広一郎は紀伊に他に好きな人がいるのかとガッカリして落ち込んでしまったが、紀伊の悩みを解決してあげようと重い腰をあげた。
私に任せろ!と啖呵を切る。

ある日、紀伊は明日は実家の法事があり1日お留守を頂きました。と報告があった。
その時、紀伊は「広一郎さまも明日は非番でございましたね」
わたくしは本当は法事に行きたくないのです。
エッ! 明日はあなたも非番だ!
降って湧いたお誘いだ・・・。
二人でどこかに行きましょうとのお誘いだ!そうに違いない!

広一郎は紀伊に赤根の湯を知っているな?
紀伊が来るかどうかも分からないのに「明日の非番は赤根の湯に行ってみる」と断言した。

朝早く、赤根の湯に向かうが、フッと思い出したように赤根の湯に紀伊が来なかったらどうしよう、何のために赤根の湯に行くんだ。来るかどうかも分からぬのに、今からだと引き返すことも出来るし・・・

赤根の湯に着いた。
湯に入らずに部屋に佇むと「湯には行かれないのですか?」と声を掛けられた。そこには湯上がりの紀伊が座っていた。
早駕籠で着いて待っていたようだ。

座り直し紀伊が広一郎の女嫌いを尋ねられた。
これは思い出す度に口惜しいような憎たらしい思いが湧いてくる。

広一郎12歳で許嫁の安永つながまだ6歳のころで気の強いつなに良いようにからかわれていた。蛇の嫌いなわたしに面白いものが見せてあげるからと行って庭に連れ出し、草むらの中からひょいと小蛇を捕まえてわたしに投げてきた。気絶したのは云うまでもない。

梶家と安永家と一緒になって赤根の湯に来たことがあった。
つなが一緒に湯に入ろうと誘ってきた。渋っていると「男のくせにいくじなしね」と入ることになった。今度は湯船に浸かると、つなは潜りっこしようと云った。
髪の毛が濡れるから嫌だし、母上に叱られると云うと、「男のくせにお母さまが怖いの?弱虫ね」とあざ笑う。

そして、潜りっこすると何度やってもつなに勝てない。必死になって息を止めて死ぬかと思ったがつなに負けた。つなは大自慢で、さんざん私のことをからかって惨めな思いをした。

耐え難いことはもっとあるが、こんな気の強いつなとは結婚できない。
つなの事を考える度に震えがきてしまうと、つなとの遊びがトラウマとなって女嫌いに拍車をかけていた。それに母上と許嫁つなはどうも似ているようにおもう。

城代家老として権力を奮う父親と私生活では母の思うがままだ、すべての実権は母が握っている。父には母の握っている鎖の長さだけしか自由はないし、その鎖で思うままに操縦されている。つなの顔を浮かんでしまう。

ついに広一郎は決心する。
紀伊を知ったことでつなとは違う何かを発見した。
よし、紀伊と結婚しよう!

広一郎は意を決して母上のさわ女に侍女の紀伊と結婚したいと願い出る。
さわ女は、それは出来ません、あなたには許嫁者がいるんです。
結婚は安永つなと決まっているのです。
それにはあなたは城代家老になることが決まっているんです。町人の娘など娶ることは許されません。
さわ女はつれなく反対して父上に聞いてごらんなさいと云った。

父上は黙って聞いていたが、母上がわたしに意見を求めたことがすでに反対していることの証です。それに相手が紀伊でもつなでも結婚したら・・・女はみんな同じですよ。と諭した。

広一郎は諦めなかった。戦略を考えよう。
もう私は紀伊以外は考えられないだ。つなとは破談にして紀伊との縁談のことばかり考えていた。ところが紀伊は暇をだされて梶家から出ていっていた。
何が何でも紀伊との結婚を夢見ていた広一郎は焦った。
そこに一通の手紙が届けられた。紀伊からだった。

「わたしは必ず広一郎さまのところに戻ってまいります」と

紀伊の手紙を信じよう。広一郎は誓った。

女嫌いが治ったことを知ったさわ女は、許嫁つなとの結婚を進めていた。
「誰かを嫁に欲しいと仰ったぐらいですから・・・」と式の準備に力を注いでいた。

紀伊は戻ってこなかった。
ついに祝言の日がやって来た。
花嫁が到着した。
白無垢に綿帽子を被った花嫁と並んで座ると小さい頃の口惜しい思いが蘇る。
盃を交わしながら広一郎は紀伊を待った。
賑やかで陽気な酒宴は祝宴に変わり花嫁は仲人に手を引かれて座を立った。

紀伊・・・どうしたんだ。
最後のギリギリまできているんだぞ!と心のなかで叫んだ

結婚して1ヶ月が経った「俺の云ったことが思い当たったかね」 と父親が云った。
「結婚してしまえば、女はみな同じようなものだ」と云うことがさ

仰るとおりでした。 女は同じでしたよ
あのおしとやかな紀伊はどこに行ったのでしょう

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葉室麟 秋月記を読む

Akidukiki

いつの世も財政難に直面すると周りが見えなくなる。
資金繰りは知恵を絞った騙し合いなのであろうか
豪商から捻出するにも、あの手この手の手練手管が要求される。

秋月藩も福岡藩から分離独立した小藩だが福岡藩がいないとやっていけない苦しい台所を抱えている。株式の51%を握っているのが福岡藩と云うことになっている。

秋月藩は苦しんでいた。
親藩である福岡藩にお願いすると、資金を融通したその日に秋月藩は福岡藩の管理下に置かれることは明白であった。

藩主はわがままである
藩主の意向を組み家老宮崎織部は長崎から石工を呼んでめがね橋を造ろうするも、失敗して多額の資金が流出した、それでもめがね橋に固執して再挑戦してめがね橋を完成させるが、秋月藩は破産寸前に陥った。

家老が元凶と家老排除に立ち上がった小四郎は仲間とともに秋月藩が親藩の管理下に置かれることを承知で事の顛末を上訴する。

株式の大半を握っている福岡藩は秋月藩に対して家老宮崎織部を引き下ろすが家老織部はその先を読んでいた。
親藩の管理下になって財政は良くなるであろう、しかし、指揮権が親藩に移り出向重役の顔色を伺いながら藩を立て直すことができるのかと疑問を持っていた。


高潔を求め分離独立に向けて小四郎は奮闘するも、親藩との蜜月を維持したい保守派との戦いが始まる。それまで仲間だった者は家老排除で重役に出世して我が身が可愛くなった。
秋月藩で殺戮を繰り返す親藩が送り込んだ伏影(隠密)との死闘もある
本藩に試されて「借り入れの交渉に行って来い!」と大阪に乗り込み豪商との駆け引きで借り入れに成功するが、賄賂を受け取ったら貸しましょうとの条件を受け入れる。

賄賂のお金は秋月に戻り重役に分配したことが、金をばら撒いて中老になったと陰口が広がる
その上、伏影を退治したことで伏影の仇敵になった小四郎は1対17の果たし合いに臨む。この時は仲違いの仲間が助勢した。秋月を襲った自然災害で窮地に追い込れ、仲間との溝が深くなり孤独になる

小四郎は自分が排除した元家老織部の胸中が知りたく織部に会う
織部は小四郎の働きを知っていた。

「ひとは美しい風景を見ると心が落ち着く、なぜなのか分かるか」

「山は山であることに迷わぬ。雲は雲であることは疑わぬ。人だけが、おのれであることを迷い、疑う。それゆえ、風景を見ると心が落ち着くのだ」

「小四郎!おのれがおのれであることをためらうな。悪人と呼ばれたら、悪人であることを楽しめ。それがお前の役目なのだ」

織部の言葉に小四郎は深く頭を垂れる。

小四郎を慕う詩人がいる 名前を猷と云う
詩人は悪人と呼ばれ評判の悪い小四郎を一緒に江戸に行きましょうと懇願する

「それにしても小四郎さまの評判は悪うございますね」

「それほど悪いのですか」

「はい、なんでも大阪の商人から賄賂をもらい、その金でご重役の歓心を買って、中老にまでご出世あそばしたとか、家老の地位を狙って、かって生死をともにした友と争い、昔の友情など踏みにじるおひとだと云うことです」

「なるほど、当たってないとも云えませぬな」

「どうして、大阪商人から金など受け取られたのですか」

「金と云うものは天から雨のように降ってくるものではない 泥の中に埋まっている。金が必要であれば誰かが手を汚さねばならぬと云われました」

「それで、ご自分の手が汚れてもよいと思われたのですか」

「どれだけ手が汚れても胸の内まで汚れるわけではない 心は内側から汚れるものです」

「汚れぬ心を持っておられるということですか」

「そうありたい、と思っていますが、さて、どこまでできるものか」

小四郎は秋月を襲った自然災害で藩に多大な被害をもたらしたとして中老を辞し隠居するが、こんなに苦しい時に藩主が参勤交代で使用する船が欲しいと駄々をこねる。この時ばかりは隠居の身でありながら断絶した仲間と共に藩主交代を本藩に上訴を試みるが、藩主に察知され上訴は失敗する。

高潔であっても正義が勝つとは限らない
岩倉具視の策略に負けたセゴドンはそう思ったのかも知れない。

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藤沢周平から葉室麟へ

Urusi

藤沢周平をあらかた読み終えた。とても素晴らし作品ばかりだった。
越後が生んだ天才上杉謙信を藩祖とする米沢藩中興の祖上杉鷹山を描いた
「漆の実のみのる国」上下巻を読み終えた。
とても難しい内容だったが、いままさに歴史の重みを感じた。

上杉治憲(鷹山)を支える竹俣当綱・莅善政の獅子奮迅の活躍によって成し得た米沢藩再興の話だった。

上杉鷹山に負けず劣らずの藩を立て直した人物がいる。
今まさにNHK大河ドラマでは真田幸村を主人公にした真田丸が人気を博しているが、幸村の居城上田のお隣にある松代藩が舞台の弱小藩です。この松代藩には幕末の偉人佐久間象山を輩出している。
その消えて無くなりそうな松代藩を窮地から救った恩田木工民親(おんだもくたみちか)がいる。(日暮硯に描かれている)
まさに上杉鷹山・恩田木工民親は民衆の心を掴む天才で率先垂範の人であったのであろう

米沢藩であっても藩祖は上杉謙信である。

上杉謙信公をお祀りする春日山神社に参拝してきた。
毎週お参りします。
4年前の6月10日、未明にfacebookに差出人不明のメッセージが表示された。
「春日山神社の提案が受け入れられた」

春日山神社を知らなかった私は1ヶ月後に春日山神社をはじめて参拝した。
それ以来、日曜日はできるだけ参拝するようにしている。

上杉謙信→直江兼続→上杉治憲(鷹山)と続く
上越の誇りであろう


Higurashi

藤沢周平の読破もひと区切り付けて、次なる作家は葉室麟です。
短編がなく殆どが長編小説です。

手始めに直木賞受賞作「蜩ノ記」を読む。
高潔な戸田秋谷は藩主側室との不義密通を騒ぎ立てられ山奥に幽閉された。
10年後の切腹、その間は家譜編纂を命じられる。

切腹が間近に迫った折り、家老と面会する場面がある
家老が述懐するように云う

「不思議だな。そなたは目立ったことをなすわけでもないのに、関わる者は生き方を変えていくようだ。心がけの良きものはより良き道を、悪しき者はより悪しき道をたどるように思える」

感動の1冊でした。
戸田秋谷は肚の座った人であった。

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藤沢周平「本所しぐれ町物語」・・・約束

まとめるのが下手で長文です。

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NHKラジオで聴く短編小説を時折り聴いています。数週間前に藤沢周平「秘密」を聴いたのが切っ掛けでブックオフに行って藤沢周平の短篇集の文庫本を6冊ほどまとめて購入した。
「時雨のあと」「雪明り」「闇の穴」「日暮れ竹河岸」「本所しぐれ町物語」「神隠し」どれも下級武士の葛藤があり武士としての面目が描かれていたり、決して大きくない大店の店主が逢瀬に走ったり、裏店(長屋)に住み日々の暮らしの悲哀が散りばめれている。一気に読み進めた。

その中でも「本所しぐれ町物語」はオムニバス風になっていてしぐれ町の日々が描かれ江戸の町並みが広がる。

『秋』でおきちが登場する。

名はおきちと云った。
母親が二年前に死んでおきちが幼い弟と妹の面倒をみている。
母親が死んでから父親(熊平)は飲んだくれの日雇いで日々をしのぎおきちは母親代わりになった。
路地裏の裏店(長屋)に住むおきちは10歳であった。

油売りの政右衛門はおきちの汗ばんでいる手に握りしめてきた古徳利に種油一合の他におきちのがんばりに多めに種油を注いだ。

「旦那さん」
「いいんだ、おまけだよ」
「でも困ります 旦那さん」
「おきちは一瞬、泣き出しそうに顔をゆがめた。そして深々と頭を下げて戸口から出て行った」

後日
おきちの父親が政右衛門の店にやって来て怒鳴り込み
おきちの父親は政右衛門に向かって正論を述べる。

「おまえさん、娘が一合の種油買いに来たのに五合計ってくれたと云うじゃないか」
「そう云うことをされちゃ、迷惑なんだよ」
「わっちはね、子供にはひとの物を盗むな、ひとからめぐみを受けるなって言っているんだ。貧乏はしているが乞食じゃねぇや。油がなきゃ、起きてねぇで寝ればいいんだよ」
「今度よけいな情けをくれやがったら、承知しねぇよ 子供のためにならねぇんだよ」

政右衛門は酔っ払っているが熊平の言い分には道理が含まれていると感じていた。

10歳と云えば小学4年生。しかも数えの10歳だから今の小学3年生辺りでしょうか
飲んだくれで稼ぎのない父親に尽くして、弟や妹の面倒を見ている。

ビッグコミックオリジナルに連載されている西岸良平「三丁目の夕日」に時折り、飲んだくれの父親に「酒買って来い!」と云われて、しぶしぶ酒を買いに行き「ツケがだいぶ溜まっている」と店主に嫌味を云われても気丈に振る舞いけなげな小学生の娘が描かれている
三丁目の夕日(夕焼けの詩)とおきちがだぶってみえる。

『約束』におきちの今から起きる運命が語られている。

おきちは弟と妹を寝かしつけると父親の帰りを待っていたが
その夜は夜半を過ぎても父親熊平は戻ってこなかった。
父親を探しに暗い夜道を探しに出る
「どこかで酔いつぶれて寝ているのではないだろうか」と心配する。

熊平がいつも飲んでいる「おろく」まで足を伸ばし覗いてみたが熊平はいなかった。
女将から「さっき帰ったよ あ~それからね」
女将の口からおきちの胸にグサリと刺さる。恐れていたことが突きつけられたのだ
「このごろあんたのおとっつぁんには困っているのよ。古いお馴染みだから来れば黙ってツケで飲ましているんだけど、たまには払ってもらわなきゃ困るのよ」
おきちは謝りながら店をあとにする。

おきちは知っていた。お金がないのに毎日毎日飲めるのか不思議だったが
小さな胸に恥辱感があふれた。
おきちの家では方々からツケ買いをしていた。
米屋・味噌屋・にもツケをしていた。晦日払いでも払えないのを承知してツケをお願いした。まさか飲み屋までツケをしているなんて・・・おきちは涙がこぼれてきた。

酔っ払った熊平は水路に倒れていた。
10歳のおきちには熊平を陸にあげることが出来ずに、暗闇を走りながら助けを求めたが通りには誰もいなかった。必死になって足を引っ張りどうにか引き上げたが熊平はぴくりとも動かなかった。

いつもは規則的ないびきをしている熊平であったが、倒れてからと云うものはいびきが不規則になり大きくなった。意識は以前として戻ってこない。

医者にみせたい。
家には金がない。
白装束の祈祷師は祈っただけで三十文を取られた。
その上に、熊平が倒れたと聞いて、甚五郎なる見知らぬ男がやって来た。
「熊さんのぐあいはどうだい」
「熊さんに金を貸してあるんだ・・・一両と二分 大金だよ 分かるかな」とおきちに攻め寄った。
おきちは、怯えている弟や妹を抱きながら「父親は何のためにお金を借りたのですか?」と聞いた。
父親が博打に手を出していたことは初耳だった。
それでもおきちは気丈に「証人はいますか?」と聞いた。

10歳の子どもが親の借金取りに対して怯まず対応しているのに驚かされた。

見知らぬ男が帰るとおきちは放心状態になっていた。
----こんなにもあちこちに------。借金があるとは思わなかった。

どこかで金を都合して、先ずは父親を三丁目の医者に診てもらうことが先だと思った。
もしこのまま、父親が死ぬようなことがあると、おきちたちはじきに暮らしの金に困り、それだけはない、飲み屋のツケ、甚五郎の借金・近所の借買いはすべておきちに降り掛かってくる。

祈祷師は内緒で金貸しをしていることをおきちは知っていた。
五百文を借りたいとおきちは云った。
祈祷師のおつなは金貸しだが、返済の目処の立たない者には決して貸さない。
おきちは頭を下げている。
おつなは簡単には金は貸さない。ましてや働きも担保のない子供には十文だって貸すつもりはなかった。
しかし、おきちはお願いすると、あとは貝のように口をつぐみ座っていた。
五百文を貸して貰うまでは、ここを動くまいと思っていた。

しびれを切らした金貸しのおつなは云った。
「医者に見せたって無駄だよ おとっつぁんは助からないよ 役に立たない借金はおやめ」
それを聞いたおきちは顔を手で隠してしくしくと泣きだした。それまでおきちの背中で大人しくしていた妹が激しく泣きだした。

金貸しのおつなは「悪かった 言い方が悪かった」「五百文、貸してやるよ」

おきちは借りた五百文で三丁目の医者に診てもらった。
金貸しおつなの言う通りだった。医者はひと通り診たが、薬も呉れずに三百文の金を受け取って帰っていった。
その次の日に熊平は死んだ。

おきちは金貸しおつねに会いに行った。
「大変だったね ひととおり片付いたかね」「子どもたちは・・・?」
「弟は大家さんの世話でもらわれて行きました。妹はまだ小さいので長屋のひとが預かってくれることに・・・」

おつねは云った。
「あんたに貸した五百文は、いずれ家の中の物を売るだろうから、その時に証文を立てに貰うけど良いかな?」
「はい それで良いですけど・・・」
「おばさん またお金を貸してくれませんか 今度は二両です」
「エッ二両?」おつなビックリした。
「二両なんて大金を、子どもあんたがどうするつもりだね」

父親が借金をしていました。
死んだと聞いて甚五郎はすぐにやって来て借金の催促に来ましたが
その借金でご飯を食べていたかも知れません 知らないふりは出来ません
それに、あたしが知らないふりをして、死んだおとっつぁんがみんなに悪く思われるのは可哀想です。

飲み屋のツケ・近所で晦日払いのツケを払おうと思います。
「変わった子だね あんたも」
「まるで大人みたいな事を云って」
「10歳の子どものやることじゃないよ」

貸してやるよ しかし条件がある
その条件で良ければ貸してあげる とおつねは云う。

奉公にでてもすぐにお給金になるわけではない
10歳の奉公であれば、住みこんでおまんまが食えるだけで精一杯だよ
同じ奉公でも二両になる奉公もあるとおきちに説明をした。

おきちは金貸しおつねの条件をのんだ。
おきちは10歳の身で女郎屋に行くことを承知したのです。
這い上がることの出来ない裏の世界に身を投じたおきちは何を思ったのだろう

二両の金をおつねから借りたおきちは、借りた五百文を払い、甚五郎に一両二分を払い、飲み屋のツケや晦日払いになっている米屋・味噌屋・油屋にも払った。

払い終わっておきちは晴れ晴れとなった。
幼い弟と妹とは別れ離れになってしまったが、いつの日か会える日が来ることを念じていた。

おきちの事は自身番でも評判になっていた。
熊平が死んでおきちが借金を精算したと話は広がっていた。
油売りの政右衛門はビックリして二両は私が立替えても良いと発言した。

おきちは安蔵が仲介して新石場の小松屋で働くことになった。
安蔵と云えば女衒ですよ。自身番で話題になった。
奉公先の小松屋は岡場所の女郎屋である。

おきちは二両の借金のかたに身を売ったのでした。
まだ間に合うでしょうか・・・政右衛門は居ても立っても居られなかったが、決まったことを覆すことは無理だった。

風呂敷包みを持つおきちと女衒の安蔵は自身番の木戸まで来て振り返り

「みなさん おせわさまでした」

おきちは一人前の大人のように云った。
そして、言い終わると同時におきちは手で顔を覆い激しく泣きだした。
泣きじゃくりながら木戸を出て行った

見送っていた人々は一斉に涙を流した。


何と言う読後感なんだろう・・・読み終わり胸が熱くなり涙がこぼれた
この後のおきちが知りたい。
女郎であるが身請けされ幸せになって欲しいと願った。

現代におきちはいるのでしょうか
まだ10歳の小学4年生です。

本編では終わりの方でおきちが再び登場する。

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文芸思潮のエッセイ賞

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文芸思潮の第8回エッセイ賞に応募したのは4月のことでした。
雪に埋もれた白い世界から野の花が芽吹き、夜桜で有名な高田城百万人観桜会に向けて人々は動き出し、鼓舞するようすがアナウンスされていた。

「海を見つめる小さな駅」

桜をイメージして2400字ほどで書いたように思う。

そして1000円の郵便振替を同封して文芸思潮に送った。
あれから3ヶ月。
応募したことも忘れていた。

分厚い封書が届いた。
中には、アジア文化社発行の雑誌「東南アジア通信」なる渾身の雑誌が同封されていた。

作品名
「海を見つめる小さな駅」

応募者数450篇を対象に第一次選考に続き、第二次選考を行った。
厳正な審査の結果、第二次選考を通過したと記されていた。

ほほほほ・・・

最終選考は、当選作・優秀作とともに「文芸思潮」第47号に掲載されるとある。

やった~と思いたいが、賞金の10万円は絵に描いた餅です。
大賞・奨励賞・入賞とある、10万円を手にするのは大賞だけです。

う~ん
厳しいな~。

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文藝春秋「日本の自殺」考

Bunngei

1975年の文藝春秋に載った論文が37年の時を経て、嫌いな朝日新聞の1面で語られた。
「[日本の自殺]がかってなく現実味を帯びて感じられる」と・・・。

芥川賞の作品を読むためだけに文藝春秋は買いますが、今回だけは「日本の自殺」を読むために買った。
先ずは、一読しただけだが、37年前の論文がいままさに、あらゆる壁にぶつかり、泥沼に足を入れてしまった苦悩に直面する日本の今を書いているように思えた。

政治家は、名誉とお金の為だけに執着し政治家たる我が身を守ろうと必死になって、国民に対してアメ玉の空約束の手形を乱発して人気を取り、あえて苦言を呈することもしない。
西郷隆盛も坂本龍馬もいない小粒な日本の政治家たちが、今にも倒れそうなコップの中で蠢き、暴れている。まさに・・・小心者でタンスの中に数億円も隠している政治家風情のメルティングポットであろうか・・・コップの上から覗いている神さまたちは呆れ返っていることでしょう

日本沈没の予感

・・・もしかすると、日本は地質学的に沈没してしまうはるか以前に、政治的、経済的、社会的に沈没してしまうかも知れない。このような予感を与えずにはおかないような社会的衰退のムードや社会病理現象はわれわれの周囲に数多く観察された。

例えば、プラトンによれば、ギリシャ没落の原因は、欲望の肥大化と悪平等主義とエゴイズムの氾濫にある。道徳的自制を欠いた野放図な自由の主張と大衆迎合主義とが、無責任と放埒とを通じて社会秩序を崩壊させていったと云うのである。

プラトンの有名な「国家」には、崩壊前夜のアテネの状況が書かれている。
「支配者たちが・・・自由をふんだんに与えてくれないと、市民たちはそうした支配者たちを、もののわからぬ奴、寡頭制的な奴と非難するようになる」---大部分省略---

ローマ帝国滅亡との類似

諸文明の没落の原因を探り求めて、われわれの到達した結論は、あらゆる文明が外からの攻撃によってではなく、内部からの社会的崩壊によって破滅すると云う基本的命題であった。トインビーによれば、諸文明の没落は宿命的、決定論的物でもなければ、天災や外敵の侵入などの災害によるものでもない。
それは、根本的には、魂の分裂と社会の崩壊による、「自己決定能力の喪失」にこそある。
と、位置づけている。

(゜ー゜)(。_。)ウンウン なるほど・・・。

あの、永遠に続くと思われた強くて巨大な国家ローマは何故に滅亡したのか

これは、非常に読み応えがあって面白い。
ローマの滅亡こそが、教訓となって生かされる国家論ではないだろうか

巨大なローマは富を集中し繁栄を謳歌したローマ市民は、次第にその欲望を肥大化させ、労働を忘れて消費と娯楽レジャーに明け暮れるようになり、節度を失って放縦と堕落への衰弱の道を歩みはじめた。
まさに、繁栄の代償・豊かさへの代償と呼ぶべきものなのか

ローマ帝国各地から繁栄を求めて流入する人口によって膨張し続け、適正規模を越えてしまった。コミュニティは崩壊した。
適正規模の町内会で情報(回覧板など)を伝達していたものが、一気に膨れ上がった町内会では、規則を守れない自由を履き違えた輩も出てくる。団結を誇った町内会も、蟻の一穴が命取りになる。町内会は崩壊すると、規則が規則でなくなり、ゴミ置き場はカラス一族の食卓になってしまう。

面白いのは滅亡の原因とされる有名な「パンとサーカス」のはなし。

ローマ市民は戦争やその他の理由で土地を失い、経済的に没落し事実上無産者と化して、市民権の名において、救済と保障を要求するようになった。シビル・ミニマムの要求である。

救済と保障を要求する市民に金持ちや政治家は群がった市民にパンを与えた。
人気を得るために・・・。無秩序に与え続けた。

いままさに民主党は無産者に対して7万円の最低保障制度をつくろうしているし、生活保護を受ける人は年々増加の一途をたどっている。まさに政治家は人気取りでパンを与え続けようとしている。

特にいま、話題の大阪市には15万人の生活保護者がいる。まぁ平たくいえば、市民の18人に1人の生活保護者数を誇っているのである。自動的に振り込まれてくる生活受給費でパチンコやら低俗なお笑いにうつつを抜かしているのであろう。

非難する私も・・・無産者になる時期が来る。その時は先陣を切って門前にたむろしてパンを貰おうと大声をだすのかも知れない。わが身は可愛いのであります。

そこにサーカスが登場する。

マンフォードによると皇帝クラウディウスのときすでに、公共の費用で催された競技や見世物は93日になり、公の休日は159日に及んだある。そして、それらは時と共に増え続け、競技日は175日になり、休日は実に200日を越し1年の半分以上も祝祭日として認めた。
無償で手に入るパンと娯楽を与えるサーカスで、人々は働く意欲を失っていった。
繁栄と福祉の絶頂に達したと錯覚したローマ社会の芯は腐り始め、ローマ人の魂は衰弱しローマは滅亡していった。

いま、まさに日本は滅亡したローマ帝国を反面教師とすることが出来るのであろうか
公務員は国民が汗水流した税金を搾取して高給取りとして、この世を謳歌している。代議士とは金の成る木なのであろうか・・・足腰の立たない老体であっても、のうのうと高給を手にしている。
こんな世の中が続くわけがない。

年金の受給者も無生産者である。
優雅な生活を望めば望むほどに国は滅びていく。

37年経ったいま、先見の明を持った論文は主張が正しかったことを証明しようとしている。
腐りきった政治家がいる限り、タンス預金を貯めこむような悪代議士がいる限り、日本の自殺はすぐそこに来ている。

・・・と、私は思った。

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森沢明夫「虹の岬の喫茶店」 ★なし

Misaki

書評を読む前に帯の紹介文に惹かれた。
≪この店に通いたい。僕はどうやら物語の魔法を掛けられたらしい≫

森沢明夫「虹の岬の喫茶店」

愛する人が最後に描いた壮大な虹の絵。
雨上がりの虹を求めて岬の突端に開いた、ちっちゃな喫茶店・岬カフェの主人悦子さんがこの本の主人公。

場所は・・・富士山が見える太平洋沿岸となる。
喧騒がこだまするトンネルを抜けると明るく視界が広がる。
トンネルを抜けて50メートルも走ると、岬に出る唯一の道路は視界から消える。
「おいしいコーヒーと音楽♪ 岬カフェ ここを左折」の小さな看板は見過ごされ、岬カフェは今日も静かな時間が広がる。


四季をテーマに第6章からなる。
人それぞれの思いが岬カフェで交錯する

初老の悦子さんは大のコーヒー通。とびきり美味しいコーヒーをお客さんの人生に重ねあわせて音楽を選らび、時には寄り添いながら人生を振り返り希望を与える。
そんな悦子さんは、右の前脚を失った犬のコウタロウと共に日々を暮らしている。

書評にはこんな文章が書かれていた。

トンネルを抜けたら、ガードレールの切れ目をすぐ左折。雑草の生える荒地を進むと、小さな岬の先端に、ふいに喫茶店が現れる。そこには、とびきりおいしいコーヒーとお客さんの人生にそっと寄り添うような音楽を選曲してくれるおばあさんがいた。彼女は一人で喫茶店を切り盛りしながら、ときおり窓から海を眺め、何かを待ち続けていた。その喫茶店に引き寄せられるように集まる人々―妻をなくしたばかりの夫と幼い娘、卒業後の進路に悩む男子大学生、やむにやまれぬ事情で喫茶店へ盗みに入った泥棒など―心に傷を抱えた彼らの人生は、その喫茶店とおばあさんとの出逢いで、変化し始める。心がやわらかさを取り戻す、感涙の長編小説。

とある。
・・・が、読み進めているうちにうんざりしてくる。

意味を理解するには難解な漢字がいたるところに出てくる。その一部を紹介すると
春宵(しゅんしょう)
寂寞(せきばく)
胸裡(きょうり)
悪罵(あくば)
憂苦(ゆうく)
静謐(せいひつ)
大多数の読者の方は理解されているとは思いますが浅学なる私は、読めないし意味も分からない。純文学を唱える小説であれば納得もするが、内容的には、とても軽い小説であります。

章立てとして唐突なプロローグではじまるが、中身が薄くエピローグのないままフェードアウトしてしまう。

章立てごとに悦子さんに絡む人々のその後はどうなっていったの?
売れない陶芸家が焼いたマグカップ 強盗に入った研ぎ職人が置いて行った包丁
就職できずにフリーライターになった情けない男 甥の浩司がバンドするために手作りしたライブハウスのその後は? 
いつの間にか、長い中略があって、いつの間にか、結婚して小学生の子どもがでてくる。
何が・・・どうしたの・・・喧嘩別れした仲間との再会は、あったの?

音楽のセンスも良いとは云えない
スピッツ「春の歌」
ケルティック・ウーマン「アメイジング・グレイス」
ビーチボーイズ「サーフィン・サファリ」「ガールズ・オン・ザ・ビーチ」
ゴスペル「ザ・プレーヤー」

など。

こんな文章がある。

着替えを済ませ、洟をかませ、「痛い、痛い」と文句を言われながら・・・

「洟」 は読めなかった。

章立てごとに、数ヶ月やら数年経過しているような章立てになっているが
悦子さんの美味しいコーヒーを飲んだ人たちのその後は、どうなったのかな
希望を与えたんだから、与えた希望がどうなったのか知りたいよね。
そんなことは、読み手が勝手に想像しろ!と、云ったような小説です。

帯に釣られて読んでは見たが・・・
★を付けることも憚れる小説でした。

大外れ。

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黒野伸一 限界集落株式会社

Gennkai

農業の再生

少子高齢化で過疎が進み、限界集落と呼ばれる集落で食料自給率の下がったいま農業を再生させる。

財務に強く、企業再生を手がけてきた主人公多岐川優は、仕事人間で家庭を顧みない典型的な企業戦士なんだが、家庭をお座なりしてきた罰で妻は子どもを連れて出ていった。
精神的にも落ち込んだ主人公は、都会に疲れて、祖父が守ってきた山奥にある集落にBMWでやって来る。
まぁ、田舎暮らしって、のんびりして良いだろうな~と安易な気持ちでやって来たのです。
ところが、この集落は殆どの人が65歳以上の高齢者で占められていて、田んぼや畑が年々先細りしていく俗に言う限界集落。

祖父が残した家屋で2~3日生活して都会に戻る予定が・・・
就農研修で若者たちが鍬や鎌を使って土いじりをしているのを眺めて、企業再生に力を注いだ過去がメラメラと燃え上がるも、畑や田んぼに自ら触ることはしない、なにしろ虫が大嫌いときている。

地域の役場からも冷たい扱いを受け診療所はなくなり、郵便局はとうに廃止され、交通手段であるバスまでもが廃止された。そんな集落は滅亡への一途をたどっていく。

休耕地がバラバラになっているのを統一しませんか?
思い思いの作物を作るのではなくて、消費者が欲しい物を作りませんか?
ここは、一旦お米は止めませんか?
旬の時期が少しずれる高地野菜に特化しませんか?
融通の効くJAは便利だが、なんでも高値で販売するJAとの取引を止めませんか?

そうだ、会社を作りましょう
ではじまった限界集落株式会社。

都会で落ちこぼれた若者にネットの強みをいかんなく発揮してもらい、キャラクターを作り、形が不揃いのクズ野菜を販売する。
地元への販売を止めて、市外・県外にでてフレッシュな減農野菜を売り込み、少しずつ手応えを感じる。

里山の復活。
農業の素晴らしさを訴える。

話がテンポよく進むサクセスストーリーです。
アッチコッチの恋愛に嫉妬も織りまぜながら、話は進んでいく。

約4時間ほどで完読。
★★

現実に、限界集落の場所を知っています。
昔から屋号を持った集落です。いまこの集落は町の小学生が里山体験で訪れる自然豊かな場所です。雪深い集落は辛い日々があります。
小説のようにホイホイと進めば良いのですがね・・・

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ドラマ「火車」 面白かった。

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宮部みゆき「火車」
見応えのある良いドラマだった。

□ 火車
仏教用語。
生前悪事を犯した亡者を乗せて地獄に運ぶという、火の燃えている車。

主人公は本間俊介。
冒頭は、刑事として犯人を追い詰めるが犯人の放った一撃で足を撃たれ、現在はリハビリのために休職中。妻を交通事故で亡くして長男と二人暮し。

亡くなった妻の親戚で銀行員の栗坂和也から意外なお願いをされる。
1年半も付き合っている婚約者と買い物をするが、婚約者である関根彰子がクレジットカードをもっていないのでカードを持つように薦めたところ、審査の段階で関根彰子が自己破産の経験者であることが分かる。ことの真偽を問い詰められた関根彰子は、突如、職場からも住まいからも姿を消した。

本間俊介は、歩くリハビリも兼ねて関根彰子の消息を尋ねる。
5年前に自己破産手続きを行った弁護士に会って話をすると、意外な事実が浮かび上がる。

自己破産者の関根彰子と失踪した関根彰子は別人であった。

失踪した関根彰子の手がかりは一切無く、自己破産者の関根彰子の足取りを追っていく。いつ、どんな状況で入れ替わったのかを調べるていく。
自己破産者の関根彰子と失踪した関根彰子の接点はどこにあるのか。

生活感を感じさせない婚約者・関根彰子のアパートにあった1枚の写真に追い詰める重要なポイントが隠されていた。

浮かび上がった接点。

自己破産者の関根彰子の母が階段から転げ落ちて死亡した。
すでに、自己破産していた関根彰子(別称・シーちゃん)は、夜の街で働いていたが、母親の死で200万円の保険金を手にする。
シーちゃんは、保険金で両親のお墓を作ってあげようと墓石屋が主催する墓地見学会のツアーに参加する。ツアーの写真の中に二人の関根彰子が仲良く写っていた。この時は、まだ・・・二人の接点はぼやけている。

安易に作れるクレジットカードから多重債務が生まれ、身の丈に合わない無理なマイホームのローンを組むことで、過激な取り立てにが日常化して、ついには一家離散の憂き目に会う。マイホームの借金で父親は連れ去られ、地獄のタコ部屋にぶち込まれ、母親は夜の街に監禁される。娘は必死になって逃げた。
が、しかし、住所を変更する度に取り立て屋はやって来る。そんな境遇に置かれた新城喬子は身も心もズタズタに破かれて社会の隅っこに追いやられる。
結婚するも、過激な取り立てで離婚して逃げざるえない。いつも、逃げる用意をして生活をしている。

そんな新城喬子は、あるアンケート用紙に書かれた個人情報見ることになる。身寄りのない、天涯孤独の同世代を探し戸籍の乗っ取りを考えのは必然だった、次の次当たりにマークしていた関根彰子の母親が階段から落ちて死んだことを新聞報道で知った新城喬子は千載一遇のチャンスと捉えたのでしょうか・・・。

自己破産した関根彰子が衣装で利用していた通信販売のアンケート用紙に書いたことが偶然にも運命を左右した。

□□□□□□---

いまでは、
取り立てが厳しく、カード破産が相次ぎ国会でも問題になって債務者に有利な配慮となったが、反面、カードの審査も厳しくなり、審査時点で入会お断りも多いと聞く。
インターネットでの買い物では、銀行振込・代金引換・クレジットカードが選べるが、手間を考えると、その場で決済できるクレジットカードは、使い勝手がよく、どうしても使用過多になりがちになる。

こんなケースもある。

友人は、15人ほどが働く小さなお店の経営者。
インターネットでの販売もあって、クレジットカードは肌から放すことができない。ETCカードを含めてガソリンの支払いもすべてカードで行い、毎月20~25万円ほど使い、毎月問題なく引き落とされ支払ってきた。
使用限度額が50万円のために、時として限度オーバーになりかけていた。カード会社から送られてくるメールにゴールドプランならぬステップアップをこの機会に・・・の謳い文句に惹かれて、使用限度額70万円・100万円のコースを申し込んだ。

後日、自宅にカード会社から一通の封書が届いた。
コース変更の手続きに関する書類かな・・・と、期待していると、意に反して、我が目を疑う文章が淡々と事務的に並べられていた。

審査の結果、ご希望に添えなくなり、その結果、いまお使いの50万円コースも取り消しさせて頂くことになり、○月○日を持って使用不可となりました・・・云々。

エ~!。
問題なく使用してきたカードは、すでに数日前から使えなくなっていたと云うことです。
怒りを抑え切れない彼は、カード会社に電話を入れるも、審査の過程をお知らせすることは出来ませんの一点張り。使用され、未請求のカード代金についてはご相談に乗ります
まるで埒があかない。

何が原因でこうなったのか分からないが、ステップアップは巧妙に仕組まれた罠だったのか。
リボ払いをしないカード使用者は、カード会社からすれば、あまり儲けさせてくれる客ではないようだ。カード会社からすれば、リボ払いのお客さまは大得意と云うことになるのでしょうね。

リボ払い・・・チョットあるなぁ~
気をつけよう。

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直木賞受賞作「下町ロケット」 池井戸 潤

Rocket

久しぶりに痛快な小説を読んだ。
最高に面白い! 一気に読み終えた。

直木賞を取った受賞作!「下町ロケット」池井戸 潤

町工場の意地とプライドが大企業やら銀行の舐めた上から目線やら諫言に悔し涙を流し、巧妙に仕組まれた誘惑や根回しに翻弄されながらも意志を貫き立ち向かう。

町工場が大企業を相手にする弱者の論理がここにある。

町工場が居並ぶ大田区で下請けで小型エンジンを作っている小さな町工場(佃製作所)の社長の佃航平は家業を引き継ぐ前は宇宙工学の研究をしていた。

売上の10%を占めていた京浜マシナリーから社内生産の方針が伝えられ取引停止を一方的に告げられる。下請け苛めとも取れる町工場の悲哀がはじまる。
すぐに手を打たなければ資金繰りは行き詰まり倒産の憂き目にあうのは目に見えていた。
銀行に3億円の融資をお願いするが研究開発を優先する現状を否定される。

こんな場面がある。
優秀な技術の証明でもある特許の話になったときに・・・

銀行の論理として
「わかるもんですか。いいですか、世の中、これが世界最先端の技術だといって投資や融資を受けようとする連中は山ほどいるんです。水で動くパソコンやら、永久稼働のモーター、あれやこれやと、どれもが特許を取る話だ・・・すべて断りました。
そんなすごい技術なら、放っておいても大企業が飛びついてきますよ。
特許がらみの話には、ひとりよがりが多いんです。御社の技術開発力を評価している者は、当行にはひとりもいません」

融資はやんわりと断られた。

悪いことは重なるもので、取引中止・融資が断られる・・・
そんな矢先に競争相手でもある、エンジンの供給では大手のナカシマ工業から特許侵害の訴訟が起こされた。
踏んだり蹴ったりの時間が過ぎていく。

ナカシマ工業は佃製作所の現状を把握して先制攻撃にでたのだった。
特許侵害の裁判を起こすことで、長期裁判で佃製作所を金銭的にも疲弊させることで倒産させて佃製作所の先端技術を根こそぎいただく算段をしていた。
頼りない顧問弁護士の問題もあって、佃は途方にくれた。
大学教授となった別れた妻から助け舟が入り、知的財産に強い弁護士が味方につく。

・・・が、倒産の危機を脱した訳ではなかった。
崖っぷちに立たされ、タイトロープの日々であった。

政府から宇宙ロケットの製造開発を任されていた帝国重工では、100億円を投じて新型水素エンジンを開発した。最先端の技術だと自慢していた、水素エンジンの中核を成すバルブシステムは、佃製作所が先に特許を取得していた。
一介の町工場に先を越された帝国重工は資金繰りで逼迫している佃製作所に対して、バルブシステムの特許を20億円で譲って欲しいと申し出る。
喉から手が出るほどに欲しい20億円だ!

しかし、佃は町工場であっても、企業の根幹に関わる大事な特許は、技術の結晶である。申し出を断る。
逆に、バルブシステムを供給したいと申し出る。

町工場である下町の中小企業が帝国重工を相手にキーデバイスを供給する
痛快ではないか。

高飛車な帝国重工では、下町の中小企業の頑なな姿勢に困惑し怒りや憤りが憤懣している。佃製作所でも社長の夢には付き合い切れないと、若手が反旗を翻し、供給をせずに使用される特許使用料で実を取ろうと立ち上がる。

が・・・。

下町の中小企業「佃製作所」が掲げる「佃品質・佃プライド」が、夢に向かって行動を起こす。
日本のものづくりの原点である、技術を磨いてきた町工場の意地がひた走る。

特許についての・・・追記。

2011年9月8日。

餅の焼き上がりをふっくら美しくするために餅に切り込みを入れた越後製菓は特許を取った。対する業界大手のガリバー佐藤食品は横の切り込みに加えて表面に縦横に切り込みを付け特許を取った。
越後製菓は怒った。切り込みを入れる特許は知的財産の侵害であると告訴した。
知財高裁が中間判決を行った。佐藤食品の切り込みは、越後製菓の特許を侵害していると認めた。
弱小企業がガリバー企業に打ち勝った瞬間だった。

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