金持ちの道楽
西の空が薄く茜色に染まっている。
陽の落ちる時間が日に日に早くなり、5時ともなると街灯には火が入る。
朝な夕なに風が冷たく体に当り、本能的に襟元を立て首を庇う仕草で歩く姿が多くなる。今宵もまた、首を竦み、よいとまけの唄を口ずさみながら雁木通りを急ぎ足になり、薄明かりが路地に差し込む、とある一軒の格子戸を、ガラガラと音を立てて開けた。
間伐材を利用して造られた小料理屋『八重菊』は、秘密の場所とも云うべき、男の隠れ家です。通りには小さな行灯が陽炎のようにぼんやりと光彩を放っている。
先日寝静まった時間に携帯の着メロ(黄昏のワルツ)が鳴った。寝ぼけ眼で着信を確認するとお世話になっているK氏からだったので、「はい、こんばんわ」と出た。
「こんど、Windows7が出るんだよね」
「そうですね 22日が発売日だと思いましたが・・・」
「冷ややかな目で見られると思いましたが、予約しちゃいました」
「エッ、予約をしたんですか?」
「金持ちはやることが早いですね」と皮肉たっぷりに。
「説明して欲しいから八重菊に行かない?」ときた。
八重菊か・・・。頻繁に行くが、客として八重菊に行くのははじめてだな。
「良いですね 予約が取れたら連絡ください」と云って電話を切り、夢の中を彷徨った。
予約が取れたと後日連絡があり、約束の時間に間に合うように八重菊への道を急いだ。内装もまた、テーブルやら椅子も間伐材がふんだんに利用され環境にやさしい店造りになっている。
予約席のプレートが掛けられた個室に入る。
店内は、心地よい響きが、邪魔にならないほどのjazzのやさしい音色が耳をノックする。木の温もりが音響として反射している。奥の深い音を刻むjazzは、会話を邪魔にすることがない。小料理屋にjazzとは、なかなか巡り合わせの良い感じです。
K氏はピカピカのラップトップを小脇に抱えてやって来た。
先ずは、ビールと水割りで乾杯をする。あとは野となれ山となれで、料理長お任せの魚料理をお願いする。
早速に・・・。ラップトップを開くと、おもむろに話を切り出す。
「Windows7の初期設定で、Vista仕様にするか、XP仕様にするかがあったはずですが」
「エッ、そんなのなかったですよ」
「それじゃ、XP仕様にしてくださいよ・・・。」
凌ぎを削る大型の家電屋からのDMを見て予約をしたようです。仕様の変更もなにもありません。何でも詰め込み放題のWindows7をお買い上げになったのですね。
「Vistaの時もお願いしましたが、家電屋に勧められて買ってはダメだと云ったでしょう」
「画面もきれいだったし、安かったんですよ」
「いくらしたんですか?」
「215,000円!」
「ヒエ~~~~」高いです! 金持ちの道楽は使い切れないお金を使うことのようです。
何でも詰め込みのラップトップが欲しいのであれば、Windows7アップグレード版付きのWindowsVistaの底値大バーゲン中の物を買うのが利口ですね。10万円前後で手に入ります・・・とは、云えなかった。
お金持ちは、そんな面倒なことはしないのです。
目の前に、欲しいものがある、それは、商品がこれ以上のない笑顔を振り撒いて、ネェ~私を買ってお願い!と懇願されているように感じるのですね。
瓶に溜め込んだ福沢諭吉は無尽蔵に湧いてくるのです。
メール設定などを説明して話は弾んだ。
悪戯・迷惑メールの悪の巣窟と呼ばれたhotmailは進化を遂げていた。yahooオークションなどでメールアドレスがhotmailの方はお断りなどと邪険にされたhotmailもOutLookExpressやらWindowsメールのメールソフトは廃止され、チャットやTV電話などで使われメッセンジャーを中心としたWindowsLiveに統合されていた。
これも、一歩リードしているyahooメッセンジャーに脅威に感じたのでしょうね
マイクロソフトは何が何でも、マイクロソフトの中に取り込もうとしているのですね
最後の足掻きにも見えるのですが・・・。
そんなこんなで、荒波に育ったワラサの刺身に近海で水揚げされたマダイの塩焼きなどを戴きました。最後はマダイの茶漬けを美味しくいただいて、ゴッツアンです。
道楽として持っている5台のWindowsXP Vista 7の数々、要らなくなったら連絡くださいね。粗大ゴミを拾いにいきますからと、手を振って別れた。





